睡眠時無呼吸症候群を放置すると?心臓と脳のリスク

🕒 2025-09-11

睡眠時無呼吸症候群とは何か 睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome、略してSAS)は、睡眠中に呼吸が何度も止まったり弱くなったりする病気です。特に多いのは「閉塞性睡眠時無呼吸症候群(OSA)」で、上気道が塞がることによって気流が止まり、酸素の取り込みが妨げられます。肥満、首回りの脂肪沈着、顎や舌の位置、扁桃肥大などが主な原因とされます。 患者本人は眠っているため自覚しにくいですが、家族から「大きないびき」「呼吸が止まっている」と指摘されることで気づく場合があります。典型的な症状としては以下が知られています。 大きないびき 睡眠中の窒息感 起床時の頭痛や倦怠感 日中の強い眠気や集中力低下 居眠り運転や仕事中の居眠り 重症度は「無呼吸低呼吸指数(AHI)」で評価され、1時間あたり5回以上の呼吸停止があると病気とされます。特に30回以上では重症と診断されます。

放置するとどうなるのか

短期的な影響

放置するとまず現れるのは「日中の眠気」と「注意力の低下」です。本人が自覚していなくても、周囲から「疲れている」「いつも眠そう」と思われることがあります。特に運転中の居眠り事故は社会的にも大きな問題で、実際に交通事故との関連も報告されています。

長期的な影響

問題はそれだけに留まりません。睡眠中に呼吸が止まると、血液中の酸素が低下し、体が「低酸素状態」と「覚醒反応」に繰り返しさらされます。これが交感神経の緊張を強め、血圧の上昇や心臓への負担増加を引き起こします。長期間放置すると次のような病気のリスクが高まります。

  • 高血圧
  • 心筋梗塞
  • 心不全
  • 不整脈(特に心房細動)
  • 脳卒中
  • 認知機能低下

高血圧や心臓病との関係

なぜ血圧が上がるのか

睡眠中の低酸素と覚醒反応は、交感神経を過剰に刺激します。その結果、血管が収縮し血圧が上昇します。さらに、正常なら夜間に下がるはずの血圧が下がらず、朝方まで高い状態が続く「夜間高血圧」につながります。夜間高血圧は脳卒中や心筋梗塞の独立した危険因子とされており、見逃すことはできません。

心筋梗塞や不整脈

低酸素状態が繰り返されることで心筋に負担がかかり、心筋梗塞の発症率が上昇すると考えられています。また、睡眠中に酸素飽和度が下がると心房が伸展しやすくなり、不整脈(特に心房細動)が起こりやすくなります。心房細動は脳梗塞の大きな原因となるため、睡眠呼吸障害の存在は重大な意味を持ちます。

脳への影響

脳卒中リスク

複数の研究で、睡眠時無呼吸症候群が脳卒中の発症率を上げることが示されています。低酸素や血圧変動、血管内皮機能の障害が積み重なることで、脳の血管に動脈硬化や血栓形成を引き起こしやすくなるからです。特に夜間に血圧が下がらないタイプはリスクが高いとされています。

認知機能と記憶

脳は睡眠中に情報整理や記憶定着を行います。呼吸が止まって睡眠が断片化すると、深い睡眠が妨げられ、翌日の集中力や判断力が低下します。さらに長期間続くと記憶障害や実行機能障害が出現し、高齢者では認知症発症リスクに寄与する可能性が指摘されています。

長期低酸素が体に及ぼす影響

血管への影響

繰り返す低酸素は、血管内皮細胞に障害を与えます。内皮は本来、血管を柔らかく保つ働きを持っていますが、障害されると動脈硬化が進行しやすくなります。また、炎症反応や酸化ストレスも高まり、血管内のプラークが不安定化します。

代謝への影響

睡眠呼吸障害は糖代謝にも影響を与え、インスリン抵抗性を悪化させます。その結果、糖尿病や脂質異常症のリスクも上昇します。心血管疾患と代謝疾患は互いに悪循環を形成するため、予防と治療が重要です。

日本の臨床データに見る現状

日本における疫学調査では、成人男性の約3〜5%、女性の約1〜2%が中等度以上の睡眠時無呼吸症候群を持つと推定されています。特に肥満が増えている中年男性に多く見られます。また、心筋梗塞や急性冠症候群で入院した患者の中には、半数近くが睡眠呼吸障害を合併しているとの報告もあります。

しかし多くの患者は「いびきくらい」と軽視し、診断や治療に結びつかないのが現状です。臨床現場では、心臓や脳の病気を経験した患者には積極的なスクリーニングが求められています。

予防と治療の方法

生活習慣の改善

  • 減量:体重を5〜10%減らすだけでもAHIが改善することがあります。
  • 飲酒制限:寝酒は筋肉を緩めて気道を塞ぎやすくします。
  • 睡眠姿勢:仰向けで無呼吸が悪化する場合は横向きで寝る工夫が有効です。
  • 禁煙:気道の炎症や浮腫を防ぐためにも禁煙は大切です。

検査方法

診断には大きく二種類あります。

  • 自宅で行う簡易検査(携帯型機器による測定)
  • 医療機関での精密検査(ポリソムノグラフィー:脳波・心電図・呼吸・酸素飽和度を同時測定)

主な治療法

  • CPAP(持続陽圧呼吸療法):最も標準的な治療で、気道を陽圧で開いたままに保ちます。眠気や血圧を改善する効果が多く報告されています。
  • 口腔内装置:軽度〜中等度で有効。下顎を前に出すことで気道を広げます。
  • 外科的治療:扁桃肥大や顎の形態異常が原因の場合に検討されます。

CPAP治療の効果と課題

CPAPは血圧や日中の眠気を改善することが明らかになっています。しかし心筋梗塞や脳卒中などの重大イベントをどこまで減らせるかは研究によって結果が異なります。その理由のひとつは「継続使用時間」です。毎晩4時間以上の使用が推奨されますが、慣れないと脱落する人も少なくありません。

治療を続けるには、マスクのフィット調整、加湿器の使用、生活習慣の改善などが欠かせません。医療スタッフの支援を受けながら長期的に取り組むことが効果を左右します。

日常でできるセルフチェック

以下の項目に複数当てはまる場合は、医療機関での相談を検討しましょう。

  • 大きないびきをかく
  • 睡眠中に呼吸が止まっていると指摘される
  • 起床時に強い倦怠感や頭痛がある
  • 日中に強い眠気があり居眠りする
  • 高血圧や糖尿病を指摘されている
  • 首回りが太い、BMIが高い

受診の目安

  • 日中の強い眠気が生活に支障をきたしている
  • 家族から「呼吸が止まっている」と言われた
  • 薬を飲んでも血圧が下がらない
  • 心筋梗塞や脳卒中の既往がある

このような場合には早急に受診することが勧められます。軽度の症状でも長年放置すると重大な合併症に繋がるため、早めのチェックが大切です。

まとめ

睡眠時無呼吸症候群は単なる「いびき」ではありません。放置すれば高血圧、心筋梗塞、不整脈、脳卒中、さらには認知症といった重大な病気のリスクを高めます。自覚がなくても周囲からの指摘があれば一度検査を受けることをおすすめします。

治療法にはCPAP、口腔内装置、生活習慣改善、外科手術などがあります。どの治療でも「続けること」が成果を左右します。心臓と脳を守るため、早期発見と早期対応が何より重要です。